課題探しから、感謝探しへ。
“TBL”は、シンプルであり誰しもでき、デモクラシーの土台に寄与することが、イチオシポイントです。TDL(東京ディズニーランド)と似ていますが、TBLは私の造語で感謝起点型学習(Thanks Based Learning)を指します。TBLは、感謝を探し感謝を表現するというシンプルな取り組みです。 高校生や大学生に、教育の中で地域の課題解決をさせようとする活動が広がっているように感じます。大人でさえも難しいことを子どもや若者にやらせることも大切でしょうが、子どもや若者に、まず、TBLを体験させていいのではと思うのです。 TBLの効果は、少人数ながら私の授業では予想よりもデモクラシーの土台づくりに寄与しました(アンケート結果は、項目「どのような新たな価値を創造しましたか?」の欄に記載しています)。 感謝を探すプロセスの中で、学生には「長崎県にこんな素敵な人がいるんだ」という気づきがありました。日本人は「ありがとう」をあまり言葉にしない国民性を持つと言われることがありますが、感謝を探し表現することで、学生たちに変化が生まれました。その変化は、自分もこのまちに何かできるかもしれないという意識の変化です。 数値に表れた意識変化を見て、短大の中の授業という、小さなステップではありますが、学生と共に歩む者として、勇気をもらいました。行動を続け、効果の検証を続けていく必要はまだまだありますが、まちと若者をつなぐアクションをひとつひとつ積み上げていきたいと思っています。
どんな課題にアプローチしましたか?
「自分にもできる」という若者を増やすことにアプローチ中です。「若者の社会参加を増やす」という社会課題は何から取り組めばいいかとても見えにくいため、ひとつひとつ目の前の小さなことから、という思いで行動しています。 日本財団が実施した『18歳意識調査』(2024)の中で「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた17~19歳の割合は、6ヵ国(日本、米国、英国、中国、韓国、インド)中、最下位でした。この日本の若者の調査結果を踏まえ、若者の意識を“まち”へ向ける取組みを行いました。 自分の行動が社会に接続しないと思っている若者が多い現状を踏まえ、「まちづくりっておもしろそう」という若者をいかに増やすことができるかが、デモクラシーが進化していく上で重要と考えています。 高校でも大学でも、昨今の教育は、地域課題の解決にアプローチすることが重視され、地域の課題を探すことを入口にすることが多いように感じます。 この入口は、地域への当事者意識が薄い生徒や学生にとって、地域課題というネガティブな面ばかりに注視してしまうリスクをはらんでいます。そのため、学びの入口そのものを変えようと考えました。まちのネガティブを探す前に、まちのポジティブを探すことを意識的に実行するという取り組みです。
どのような新たな価値を創造しましたか?
感謝起点型学習(TBL:Thanks Based Learning)という学び方を考案し、私の授業『イベントプランニング』(受講者8名)(90分×8回)で実行しました。結果、TBLが、若者の意識を“まち”へ向けるきっかけとなった手応えを得ました。 TBL(感謝起点型学習)は、PBL(課題解決型学習)を参考にしています。Project / Problem Based Learning(通称PBL)は、文部科学省がアクティブ・ラーニングの一つとして推奨しています。私はこのPBLのPをTに変え、課題探し先行ではなく、感謝探しを起点とした学びの手法を実践しています。 感謝を探すために活用したのが、地域の新聞(長崎新聞)と長崎県が発行している広報誌です。両者を1年分、学生と読み込み、Z世代である学生が最も感謝を伝えたい長崎人(MVN: Most Valuable Nagasakin)を選出しました。ダイアローグを重視し、MVNを選ぶ基準自体も学生同士で話し合い、その上で、学生が14名のMVN候補を見つけ、学生によるプレゼンテーションを行った後に、さらに話し合いを重ね、MVNを決定しました。 感謝探しは、探しただけで終わらず、感謝を表現するまでをセットにしました。どうすればMVNに喜んでもらえるかを学生が考え、話し合い、Thank U Dayというイベントを考えました。MVNに感謝のメッセージを届け表彰するイベントです。 “感謝を探し、感謝を表現する”一連の取り組みを終えた受講者全員を対象に、「4月の初回授業を受けた時点のあなた」と「今のあなた」を5段階(1〜5点)で比較するアンケートを実施したところ、「自分にも、長崎県をより良くするためにできることがあると思う」が受講前平均3.13から受講後平均4.00へ大きく上昇しました。 アンケート項目の構成は、主観的幸福感、感謝の程度、地域への愛着度、そして地域への有効性感覚を軸としており、受講前と受講後で最も伸びを示したのが、「地域への有効性感覚」でした。TBLが、自分の目の前にある“まち”に対して、ポジティブな目を向けるきっかけになっていることがうかがえ、今後もデモクラシーの土台づくりの試行錯誤を続けて行こうと考えています。
どんな工夫をしましたか?
【工夫① AIに聞かず、人に聞く】 感謝探しの始点を、地元の人が書いた読み物に設定しました。地域の新聞(長崎新聞)と長崎県の広報誌を1年分読み込んだ上で、MVN候補を選出しました。MVN候補のことを深く調べるためにAIやインターネットの活用もしましたが、新聞と広報誌の読み込み“後”にAIやインターネットも活用したという順序が、工夫です。PBLで地域の課題探しをテーマにした場合、学生はAIを駆使し課題を簡単に見つけ出すことが少なくありませんが、TBLは、先にAIに聞かず、先に人に聞く(人が書いたもので調べる)という工夫をしています。 補足)普段、縦書きの文字を読み慣れていない学生は、目がチカチカすると言っていました。感謝探しの中で、学生がつかんだものは、身近に挑戦者がいる事実と、その挑戦が誰かを支えている事実です。これらを知った学生の中に、勇気が惹起された感触が担当教員としてあります。最終的に、MVNに直接感謝を伝えたときの学生の目の輝きに、圧倒されました。チカチカがキラキラになっていました。 【工夫② ダイアローグ&ダイアローグ】 MVNを選ぶ基準そのものを、教員が与えず学生同士の話し合いで決めさせました。学生が14名のMVN候補を見つけ、学生によるプレゼンテーションと話し合いを重ねて1人に絞り込むという、意見の違いを調整するプロセスを経ています。 【工夫③ 感謝を表現する(日本人は不得意?)】 「感謝を探す」だけで完結せず、「感謝を表現する」までを一つのプロジェクトとしてデザインし実行しました。どうすればMVNに喜んでもらえるかを学生自身が考え、Thank U Dayというイベント(対面で感謝メッセージを伝え、感謝動画を上映し、表彰状を渡し、対談をする)の内容を話し合って決定しました。 補足)当初はMVN受賞者と対面でThank U Dayを実施する予定でしたが、先方の日程都合により、予定していた日には実現できませんでした。学生はここで諦めず、感謝動画と表彰状を郵送でお届けするという次善の策に切り替え、形を変えてでも感謝を届けきるという判断を自ら行いました。 【工夫④ 復習し次につなげる】 受講者全員を対象に、主観的幸福感、感謝の程度、地域への愛着度、そして、地域への有効性感覚について5段階で問うアンケートを、授業前後で実施し、変化を可視化しました。 【工夫⑤ 授業内容の青空化】 教室という空間内で完結する授業ではなく、多くの人の目に触れることのできる青空授業を意識し、短大公式Instagramや個人Instagram等、SNSで発信しました。また、授業内容を長崎新聞に取り上げていただきました(2026年9月5日付。10面にA4一枚程度の大きさの記事として掲載していただきました)。「授業内容は公開しています、知りたければ~を見てください」という消極公開ではなく、積極公開を意識し、私の造語ですが「授業の青空化」を図っています。