集めた声から「次の問い」を生み出す広聴の実践
自薦私が一番面白いと思っているのは、自分たちの身近な具体の声やデータを見たときに、人の側から「次の問い」が生まれるところです。 一般的なレポートや他地域の事例を読んでも、「ふーん」で終わることがあります。自分たちの地域で実際に集まった声や、自分たちが普段関わっているテーマのデータを見ると、反応が変わります。 高校生との実証では、大人側に「高校生は親が運賃を払うので、それほど料金を気にしていないのでは」という見方がありました。実際に対話してみると、公共交通の料金への不満が何度も出てきました。 すると、「どの程度の負担なのか」「どんな移動で困っているのか」「ほかの高校生も同じなのか」と、次に確かめたいことが出てきます。自治体職員の方々と自分たちの地域の具体的なデータを見ると、それまで出てこなかった問いが急に次々と出てくることがあります。 当事者に聞き、自分たちの身近な具体のデータを見ることで、それまでの想定が変わる。そこからまだ分からないことが見え、次に何を聞くかを考え始める。その材料をAIでつくり、もう一度聞きに行けるようにする。 この現象は、一つの実証だけでなく複数の自治体の現場で見え始めています。声を集め、そこから人に問いが生まれ、その問いを持ってもう一度聞きに行く。この循環を自治体の現場で少しずつ形にしていることが、今回の取り組みで一番面白いところだと感じています。
どんな課題にアプローチしましたか?
自治体には、アンケート、パブリックコメント、市民との対話などを通じて多くの声が集まります。自由記述が数百、数千件になると、一つひとつを読み、背景や違いまで把握することは難しくなります。 集計や要約ができても、「まだ誰の声を聞けていないのか」「何が分からないのか」「次に誰に何を聞けばよいのか」まで考えるには、そこから人が声を読み解く必要があります。 当事者の声を直接聞くことで、周囲の想定とのズレが見つかることもあります。以前参加させていただいた群馬県太田市の自分ごと化会議では、大人が子どものためを思って心配していた給食の論点を、当事者の子どもたちはそれほど気にしていないことがありました。北海道の高校生との実証では、大人側がそれほど気にしていないと考えていた公共交通の料金について、本人たちから繰り返し不満が出ました。 周囲が良かれと思って考えていても、当事者の実感とはずれることがあります。できるだけ多くの当事者に直接聞き、その声を人が読み、思い込みを更新し、まだ分からないことを見つけて次の問いにつなげる。そんな広聴のあり方を、自治体の現場で試してきました。
どのような新たな価値を創造しましたか?
「声を集める → AIで整理する → 人が元の声を読む → まだ分からないことを見つける → 次の問いをつくる → もう一度聞く」という流れを、一連の広聴のプロセスとして試しています。 2025年3月にデジタル民主主義2030プロジェクトへ開発者として参加し、4月から「広聴AI」のメンテナーとして開発・運用に関わってきました。その後、自治体への説明や試行支援にも関わるようになり、「いどばた」の開発・実践にも参加しています。 自治体の現場に関わる中で、広聴AIで大量の声を整理することから、その先にある「まだ何が分からないのか」「次に誰に何を聞くか」へ関心が広がりました。そこで、自身でも音声AIインタビューや「Policy Spotlight」を開発しています。 音声AIインタビューでは、チャットへのテキスト入力の負担を減らしながら、音声で背景まで聞きます。広聴AIでは、大量の自由記述を構造化・可視化します。いどばたでは、参加者同士の対話から論点を集めます。Policy Spotlightでは、ある政策や論点にライトを当てたときに周辺にうっすら見えてくるものから、「まだ分からないこと」や次に確かめたい問いを考えます。 Policy Spotlightは、東京都の都知事杯オープンデータハッカソン2026で、オープンデータとして公開されていた品川区の区民の意見データをもとにプロトタイプを作成しました。実際の自治体の意見データを使うことで、別の地域やテーマにも応用できるかを確かめています。 北海道の自治体と行った高校生との実証では、3クラスが参加し、340の対話スレッド、1,274回のやりとりから236件の課題と247件の解決策が抽出されました。この量の対話をAIで整理し、必要に応じて元の声へ戻って確認します。その上で、何が分かったのか、何がまだ分からないのかを人が読み解き、次に誰に何を聞くかを考えます。
どんな工夫をしましたか?
実際の自治体のデータを使い、現場で何が起きるかを見ながら進めています。そこで「ここが足りない」と感じた部分を小さくプロトタイピングし、別のデータや現場でも確かめています。 AIで声を整理するときは、整理結果から元の声へ戻れるようにしています。また、「分かったこと」だけでなく、「まだ分からないこと」や次に確かめたいことが見えてくる材料を出し、それを見た人が「なぜこういう声が出たのか」「ほかに誰に聞けば分かるのか」と考えられるようにしています。 この進め方を続ける中で、実際に試す自治体や、活用を検討するテーマも広がってきました。ある自治体では、地域のイベントで広聴AIといどばたを使って声を扱ったことが、市役所や高校との実証につながりました。別の自治体では、職員アンケートの自由記述を広聴AIで分析し、そこから外国人市民、パブリックコメント、事業者支援など別のテーマでの活用も検討されています。 一つの実証で終わらず、ある現場で見つかった課題や使い方が、次のテーマや別の自治体での試行につながっています。公開されている意見データでも試しながら、地域やテーマが変わっても使える広聴の方法を確かめています。