茅ヶ崎100年基金
【100年後にも残る「市民がつくる地域金融インフラ」を、ゼロから設立。】 私たちのイチオシポイントは、イベントを成功させたことでも、団体を支援したことでもありません。 地域の未来を支え続けるための「お金の流れそのもの」を、市民の力で新しくつくったことです。 これまで地域の社会課題については、 「行政がお金を出す」「企業がスポンサーになる」「活動する本人が頑張る」「必要なときにクラウドファンディングをする」 という方法が中心でした。 私たちは、その当たり前にもう一つの選択肢を加えました。 市民が意思あるお金を持ち寄り、それを地域の財産として蓄積し、それを資産運用しながら育て、その果実を次世代へ循環させ続ける。 一度の寄附を、一度の支援で終わらせない。継続型コミュニティ基金です。 今を生きる私たちのお金が、自分たちがいなくなった後も地域で働き続ける可能性をつくる。 それが茅ヶ崎100年基金です。 2026年3月31日までに20人のファウンダーと79人のクラウドファンディング支援者から16,245,000円が集まり、同年6月10日、構想は本物の基金になりました。 しかし、私たちはこの金額が成果だとは考えていません。 最大の成果は、まだ助成実績も、前例もない段階で、「自分のためではなく、まだ会ったことのない次世代のために」とお金を託す人がこれだけ現れたことです。 そこには、世代を超えた新しい連帯があります。 デモクラシーとは、今を生きる多数だけで物事を決めることではなく、まだ意思表示できない子どもや、まだ生まれていない未来世代のことまで想像しながら、社会のあり方を選び取っていく営みでもあるのではないでしょうか。 茅ヶ崎100年基金が扱っているのは「お金」ですが、私たちが本当につくろうとしているものは、未来に対する市民の意思を、100年先まで届ける仕組みです。 そして、この挑戦は茅ヶ崎だけのものではありません。 人口減少。自治体税収の減少。消滅自治体の発生。高齢世代に偏在する金融資産。資金不足に苦しむ地域活動。未来への投資の不足。 これらは、日本全国の地域がこれから直面する共通課題です。 だからこそ、茅ヶ崎でこのモデルを成功させ、仕組みとノウハウを開き、各地域がそれぞれの「100年基金」を育てられる社会へ広げていきたいと考えています。 100年前、誰かがこの基金をつくってくれていたら、今の茅ヶ崎にはどれほど大きな「まちの財産」が残っていただろう。 そう考えたとき、私たちが出した答えはシンプルでした。 「100年前に無かったのなら、今、自分たちが始めよう。」 私たちは2026年、茅ヶ崎にその最初の種をまきました。 この小さな基金を100年後の大きな森に育て、未来の地域を支える。 そして、「地域の未来を支えるお金は、地域のみんなで育てられる」という新しい当たり前を、茅ヶ崎から全国へ広げていきます。
どんな課題にアプローチしましたか?
【課題は、「活動する人がいない」ことではなく、「価値ある活動に、お金が続かない」ことだった。】 茅ヶ崎には、子どもの居場所、教育、福祉、文化、スポーツ、主権者教育、若者の挑戦など、次世代を支える市民活動が数多くあります。私たちが地域で活動する人たちと出会い、対話を重ねる中で見えてきたのは、担い手やアイデアが不足しているのではなく、むしろ「社会的価値のある活動ほど、継続するためのお金が不足している」という構造的な問題でした。 「儲かることと、社会的価値あることは、違う。」 たとえば、困難な環境にある子どもの居場所は、利用する子どもから十分な料金を取ることができません。政治的中立性が求められる主権者教育では、企業スポンサーをつけにくい場合もあります。子どもや若者の挑戦を支える活動も、成果が出るまで長い時間がかかり、短期的な収益性では評価できません。 「儲かること」と「社会的価値があること」は、必ずしも一致しない。 しかし現在の社会では、そこが一致しない活動ほど、担い手の善意や無償労働、自己負担によって支えられがちです。実際に私たちは、自分の生活を削りながら地域の子どもを支える人や、ほぼボランティアで社会的価値のある活動を続ける人たちを数多く見てきました。 私たちは、この状態を「頑張っている人を応援しよう」という精神論ではなく、お金が流れる仕組みそのものの問題として捉えました。 【人口減少によって、さらに細くなる「未来への投資」】 もう一つの課題は、人口減少社会です。 茅ヶ崎も人口減少局面に入り、今後、多くの自治体で税収減少と社会保障費増加が同時に進むことが予想されます。行政には、福祉、インフラ、防災など、現在を支えるために優先しなければならない支出があります。 そのとき、真っ先に細くなりかねないのが、まだ成果の見えない「未来への投資」です。 子どもが自由に挑戦する機会。 若者が社会課題に取り組む機会。 リーダーシップやシティズンシップを育てる機会。 文化や芸術、多様な体験。 困難を抱えた子どもが安心して一歩を踏み出すための環境。 こうした取り組みこそ、100年後の地域をつくる土台であるにもかかわらず、単年度予算や短期的な採算性だけでは支えにくい領域です。 【日本にはお金がないのではない。「未来へ巡る回路」がない。】 一方、日本には約2,200兆円もの個人金融資産があります。その多くを高齢世代が保有し、相続する側も高齢化する「老老相続」が進んでいます。 つまり私たちが向き合った課題は、単純な「お金不足」ではありません。 地域には社会的価値を生み出す人がいる。 社会には膨大な金融資産がある。 それなのに、その二つをつなぎ、地域の未来へ継続的に資金を循環させる回路が十分にない。 ここに、茅ヶ崎100年基金がアプローチした本当の課題があります。 行政予算だけでも、市場原理だけでも支えにくい領域に、市民の「意思あるお金」を継続的に巡らせる仕組みをつくる。 その仕組みそのものを、地域の新しい財産として次世代に残そうと考えました。
どのような新たな価値を創造しましたか?
【「寄附したら減る」から、「寄附を地域の資産として育てる」へ。】 茅ヶ崎100年基金がつくろうとしている最大の価値は、寄附の意味を変えることです。 一般的な寄附やクラウドファンディングでは、集めたお金を事業に使えば資金は減っていきます。必要になれば、また次の寄附を集めなければなりません。 茅ヶ崎100年基金が目指すのは、その「使い切り型」だけに依存しない仕組みです。 寄附によって地域の資産を形成し、その資産規模を育て、将来的には資産運用による運用益も活用しながら、次世代を継続的・長期的に支える。 つまり、 寄附を「一度使って終わるお金」から、 「地域に残り、育ち、未来へ価値を生み続ける財産」へ変える。 それが、茅ヶ崎100年基金です。 現在は資産総額1億円を次の目標としています。1億円規模に達した段階で資産運用を開始し、運用益も活用した継続型コミュニティ基金へ移行することを目指しています。 100年という言葉は、単なる期間の長さを示すものではありません。 「自分が生きている間に使い切る」のではなく、「自分がいなくなった後の地域にも価値を残す」。 金融の時間軸を、現在から次世代へ引き延ばす発想です。 【「地域金融」を、地域の未来を選択する市民参加へ。】 私たちは、デモクラシーとは選挙だけではないと考えています。 地域の未来に何を残すのか。 限られた資源を、どのような社会的価値に振り向けるのか。 どんな次世代を応援したいのか。 そうした問いを市民一人ひとりが考え、意思を示し、行動することもまた、地域社会への参加です。 茅ヶ崎100年基金への寄附には、一人ひとりの「こんな未来を次世代に手渡したい」という意思があります。 そのため私たちは、お金を単なる金額として扱うのではなく、その背景にある思いや物語も基金の大切な財産だと考えています。 地域金融を、単なる資金の貸し借りや個人の資産形成だけではなく、「自分のお金の一部を、地域の未来への意思表示として託す行為」へ広げていく。 これは、市民参加の新しい形でもあります。 【「支援する側/される側」ではなく、みんなで未来をつくる。】 当初、基金への高額寄附は50万円以上としていました。 しかし、それでは参加できる人が限られます。 「まちの基金」である以上、一部の資産家だけがつくる基金ではなく、多様な市民が参加できる基金にしたい。 そこで5,000円から参加できる寄附型クラウドファンディングを立ち上げました。 その結果、基金設立期限である2026年3月31日までに、20人のファウンダーと79人のクラウドファンディング支援者が参加。寄附総額16,245,000円が集まり、設立目標1,000万円を大きく上回って、2026年6月10日に「茅ヶ崎100年基金」が正式に設立されました。 まだ助成実績もない、前例もない基金に、これだけの市民が「未来のために」とお金を託した。 これは単なる資金調達の成功ではありません。 地域の未来を、自分とは無関係な「行政の仕事」にせず、自分たち自身の手で支えようとする人がこれだけ存在することを、目に見える形にしたこと。 それ自体が、私たちが生み出した大きな社会的価値だと考えています。 【一つの地域の基金ではなく、全国へ展開できる仕組みへ。】 さらに、私たちは最初から茅ヶ崎だけで完結する仕組みにしていません。 公益財団法人を地域ごとにゼロから設立することは、資金面でも運営面でも高いハードルがあります。 そこで、基金の設立・運営、助成、将来的な資産運用など専門性が必要な部分を公益財団法人日本フィランソロピック財団が担い、地域での対話やファンドレイジングを地域に根ざした一般社団法人茅ヶ崎100年基金が担うスキームを構築しました。 これによって、地域性と専門性を両立しながら、他地域でも応用できるモデルをつくりました。 茅ヶ崎で成功したら、ノウハウを開き、全国へ展開したい。 私たちが最終的につくりたいものは「茅ヶ崎だけが豊かになる仕組み」ではありません。 日本中の地域が、自分たちの未来のための財産を、自分たちで育てられる社会です。
どんな工夫をしましたか?
【1.いきなり基金をつくらず、3年間、地域の現場から課題を探した。】 この基金は、金融の専門家が机上で考えた仕組みではありません。 構想の出発点は、地域で実際に活動する人たちとの出会いでした。 代表の池田は、コロナ禍を機に価値観が変わり、全国規模の仕事から地域へと活動の軸足を移しました。茅ヶ崎の海辺にコモンスペース「Cの辺り」を立ち上げ、自ら地域プロジェクトを実践し、市民活動の担い手たちと活動し、対話を続けました。 その現場で見えてきたのが、「社会的価値はあるのに、お金がない」という共通課題でした。 そこから約3年をかけて、仲間や専門家と議論しながら基金の仕組みをつくりました。 最初に「基金」という答えがあったのではなく、地域の現場を歩いた結果として、基金という答えにたどり着いたことを大切にしています。 【2.地域の熱量と、公益財団法人の専門性を分業した。】 地域基金をつくろうとして最初に直面したのが、「自分たちには財団運営も資産運用もできない」という問題でした。 そこで、自前ですべてを抱え込むことをやめました。 基金の設立・運営を公益財団法人日本フィランソロピック財団が担い、一般社団法人茅ヶ崎100年基金は地域に入り込み、対話し、共感を生み、寄附を集める。 それぞれが得意な役割を担う設計です。 助成先についても公募し、活動計画等をもとに選考委員会で審査する設計としています。 「誰か一人のお金だから、その人が地域の未来を決める」のではなく、多くの意思を集めながら、公共性・公平性を担保できる基金を目指しました。 【3.「大口寄附」だけでなく、5,000円から参加できる入口をつくった。】 当初の50万円以上という寄附条件では、基金に共感しても参加できない人が多くいました。 そこで私たちは仕組みの側を変えました。 クラウドファンディングを立ち上げ、5,000円から参加できるようにしました。 金額の大小ではなく、地域の未来に参加する意思を大切にする。 この変更によって参加者の裾野が広がり、ファウンダーだけではなく、多くの市民が一緒に基金をつくる仲間になりました。 これは単なるファンドレイジング上の工夫ではありません。 「地域の未来づくりへの参加資格を、資産の大きさで決めない」という、私たちなりのデモクラシーの実践です。 【4.効率よりも、一人ひとりとの対話を選んだ。】 前例も、助成実績もない基金に寄附を募ることは簡単ではありませんでした。 そこで、広告だけでお金を集めようとはしませんでした。 半年間で3,000枚を超えるチラシを配り、一人ひとりに会い、なぜ基金が必要なのか、どんな未来をつくりたいのかを伝えました。 寄附者にも「あなたはどんな未来を次世代に手渡したいですか?」と問い、その思いを可視化しました。 結果として集まったのは、16,245,000円という数字だけではありません。 地域の未来について考え、意思を言葉にし、自分のお金を託す人たちのコミュニティが生まれました。 ファンドレイジングそのものを、市民が地域の未来について考える対話のプロセスにしたことが、大きな工夫です。 【5.「100年続ける」ために、最初から拡張可能な設計にした。】 単発のクラウドファンディングなら、目標額を達成すれば成功です。 しかし私たちにとって、1,000万円の達成はゴールではありません。スタート地点です。 次の目標は1億円。 その先は資産運用。 そして毎年、次世代を支える助成へ。 寄附する。 基金が育つ。 地域活動へ資金が巡る。 活動から新しい挑戦や担い手が生まれる。 その姿を見た人が、再び基金に参加する。 私たちは、この循環自体を地域文化として根付かせようとしています。 さらに、茅ヶ崎で得たノウハウを他地域へ展開できるよう、公益財団法人との連携スキームそのものを再現可能な形で設計しています。 「100年」は、長期目標であると同時に、最初から長く続くことを前提に仕組みを考えるための思想でもあります。