早稲田大学デモクラシー創造研究所(以下、本研究所)のパブリックリーダー育成部会では、若い世代の価値観や行動様式の変化を捉え、これからの民主社会を支える人材に求められる資質について、継続的な調査研究を行っている。その一環として、本研究所招聘研究員である羽田智恵子を中心に、「ソフトスキル育成のための意識調査」を実施した。
近年、生成AIをはじめとするデジタル技術の急速な進展により、専門知識や定型的な作業能力といった、いわゆる「ハードスキル」は、今後ますますAIによって代替されることが予想されている。その一方で、自らの考えを言語化し、他者と協働しながら課題を解決する力、すなわち自己表現能力やプレゼンテーション能力、対話力といった「ソフトスキル」は、人間に固有の能力として、その重要性が改めて指摘されている。
しかしながら、こうしたソフトスキルについて、若い世代がどの程度認知しており、また、どの程度必要だと感じているのかについては、必ずしも十分な実証的データが存在していなかった。そこで本調査では、若い世代を対象に、ソフトスキルに対する認知度および必要性の認識について明らかにすることを目的として、アンケート調査を実施した。
調査の結果、まず明らかになったのは、「ソフトスキル」という言葉自体を「知っている」と回答した人が全体の1割未満にとどまっていた点である。すなわち、多くの若者にとって、ソフトスキルは概念として十分に浸透していないことが示された。

一方で、自己表現能力やプレゼンテーション能力、他者と協働する力など、ソフトスキルの具体的な内容を説明した上で、「今後の社会において、これらの能力がどの程度必要だと思うか」を尋ねたところ、8割以上が「重要である」「非常に重要である」と回答した。この結果は、若い世代が言葉としてはソフトスキルを十分に認識していなくとも、その中身については直感的に重要性を感じ取っていることを示唆している。

この認知と必要性の間に存在するギャップは、日本の教育や人材育成の在り方を考える上で、重要な示唆を与えるものである。現代の日本の教育においては、知識や技能の習得を重視するカリキュラムが体系的に整備されてきた一方で、ソフトスキルを意識的・継続的に育成するための教育プログラムは、必ずしも十分に制度化されてこなかった。
例えば、イギリスでは「ドラマ」教育を通じて、自己表現力や他者理解、協働的な問題解決能力を育成する取り組みが学校教育の中に位置づけられているが、日本においては、こうしたソフトスキル育成を主眼とした教育実践は、個別的・断片的な取り組みにとどまっているのが現状である。
本調査の結果は、今後、学校教育のみならず、大学教育や社会人教育の場においても、ソフトスキルを体系的に訓練する講座やプログラムへの需要が一層高まっていく可能性を示している。本研究所では、引き続き若い世代の価値観や能力形成に関する調査研究を進めるとともに、民主社会を支える人材育成のあり方について、実践的な提言につなげていく予定である。