早稲田大学デモクラシー創造研究所(所長・日野 愛郎 早稲田大学政治経済学術院教授)は、自治体の人事施策や組織での人づくりの優先順位を明らかにする調査を実施し、得られた回答から作成したランキングTOP10の結果を公開しました。
【早稲田大学デモクラシー創造研究所の総合コメント】
近年、公務員を志す若者の減少に歯止めがかからない。採用できても早期離職や休職も増加している。現場の人員不足は深刻である。
自治体では、採用の工夫や職員研修、OJT、他団体への派遣等で人材育成にも取り組んでいるはずであるが、現状は厳しい。本来公務員の仕事は、地域や住民から喜ばれる仕事であり、「やりがい」や「誇り」を得られる職場である。
ヒエラルキー型組織で上からの一方通行的な自治体組織では、社会全体の価値観の変化の中では非常に息苦しい組織になっている可能性があり、フラットな関係性の中で育ってきた若者にとっては異文化だろう。
本調査では、職員が「やりがい」や「働きがい」を感じ、自分のキャリアデザインを描きやすく、闊達に働ける組織や人事制度の構築に向けた取り組みを調べた。今回のランキングでトップだった塩尻市の得点率は約51%と、満点の半分程度だった。回答の平均をみると、得点率は約16.9%となっており、改善の余地が十分残されていると考える。
【TOP5の自治体で特徴的だった取り組み(概要)】
※主に「取り組み」を尋ねている調査のため、取り組みの数が多いほど得点があがります。
※下記では、主に自由記述で回答のあった項目を中心に、上位の自治体の特徴的な取り組み概要をご紹介します。
※ランキング上位の特徴を取り上げ、全国自治体での底上げをすることを目指しているため上位団体のみを公表しています。なお、個別の自治体について順位をお問い合わせいただいても回答致しかねます。回答者宛に、順位や分野別傾向を記した個別票を提供しています。
1位 塩尻市
【客観的な昇任決定】
タレントマネジメントシステムを導入。人事評価データ、意向調査データなどを一元的に管理できる仕組みを導入し人材配置に活用している。また、係長昇任試験の論文試験等の採点は外部にアウトソーシングし、客観的なデータに基づき昇任決定を行っている。
【特徴ある係長研修】
係長代理・係長職を対象に、地域企業や大手企業の次世代リーダーとチームを組成し、約3か月間、地域ステークホルダーが抱える課題に対して、解決案を提案する研修を実施。異業種間のチーム内で自身の役割を認識しながら、係長職に求められるリーダーシップ力や最後までやり遂げる力を養うことが目的。地域の人材育成を担うNPO法人と連携して実施している。
2位 熊本市
【業務マネジメントの推進】
①各部長を中心として、局(区)・部・課の組織目標を設定し、各部長が当該年度の人材や業務のマネジメントに注力する課長を支援。より俯瞰的な視点で中期的・広範囲な人材や業務のマネジメントを担うことで、円滑な業務の推進を図っている。
②次年度の目標設定時期を前倒し、当該年度中に設定することで業務を推進。その課題や進捗を熟知した職員が、次年度の組織目標を設定することで、より精度が高い目標を設定するとともに、次年度の当初からスピード感を持った業務を推進を図っている。
【若手職員への丁寧な育成プラン】
研修体系の見直しを行い「採用8年目」までを職員育成重点期間と位置づけ、毎年度対面研修を実施。また、新規採用職員研修の充実化を図り、年間延べ約20日の対面研修を実施し、同期同士のつながりの強化や年齢等関係性の近い職員との対話の機会の提供を行なっている。
3位 長野県
【首長経営層の関わり】
職員が明るく・楽しく・前向きに仕事ができる組織になるために組織風土を創りかえることを目指す「かえるプロジェクト」を実行。知事、副知事や部局長などの経営層を中心に、仕事改革や職場改善、人材育成・キャリア開発をテーマに10のプロジェクトチームを発足させ、ペーパーレス化や業務改善の取組強化、オフィス改革、人事制度改革などの具体的な取組を進めている。
【職員のキャリアデザイン】
高度化・複雑化する行政課題に対応するため、高い専門性を備えた職員の育成を推進する人事制度として、「ジョブファミリー制度」を実施。さらに、職員一人ひとりのキャリアデザインを支援するため、「1on1面談」、「キャリアデザイン研修」、「キャリア相談窓口の設置」などの取り組みを実施している。
3位 北九州市
【組織内コミュニケーションの活性化】
情報発信ツールとして職員一人ひとりの活躍、部署紹介、市長からのメッセージなど、市役所内の様々な情報を共有するためのポータルサイトを開設。
コンテンツ内容は、①市長からの手紙(市長から職員の皆さんに向けたメッセージ)、②Monthly市政Report(前月にどのようなことがあったのか、どのような思いで市政を展開しているのかなどを市長が動画でお知らせ)、③職員インタビュー「STORY」(それぞれの職場で活躍する職員の皆さん一人ひとりに焦点を当てたインタビュー企画)、④職員キャリアナビ(職員の皆さんが異動希望や自身のキャリアを考える際に参考としてもらう、市役所各課の情報をまとめた検索ツール)、⑤市長への提案箱(職員からの業務改革や人材育成、施策・事業などについての提案箱)等々の取り組みを行なっている。
5位 香川県
【職員のチャレンジ機会を創出】
若手職員の視点から「働きやすい職場づくり」「やりがいを感じられる職場づくり」を推進するため、庁内公募により参加した40歳未満の若手職員が「新しい働き方の推進に関する若手職員の提言」を取りまとめるプロジェクトチームを立ち上げ、提言内容を知事に報告。提言を受け、フリーアドレスの導入や、フレックスタイム制の導入といった新しい働き方の導入に至った。また、職員としての視野を広げたり自身の適性に気付いたりする機会や自身の得意分野を生かして県庁内で活躍する機会を創出し、主体的なキャリアプランの形成と実現を支援することなどを目的に、勤務時間の一部を自所属以外の所属の業務に従事することができる庁内ジョブチャレンジ制度を実施している。
5位 愛媛県
【採用の工夫】
技術職については採用試験合格者の名簿登録期間を「3年」としている。県庁退職者に限定した採用試験は実施していないものの、一定期間、公務員としての経験を有する職員を対象とした試験を実施しており、愛媛県庁を退職した職員も受験できるような取り組みを行なっている。
調査概要
●調査方法等:全国1788自治体(都道府県・市区町村)の人事・総務担当に対し、メールまたはハガキ(アドレスを把握していない自治体のみ)にて依頼文を送付。ウェブフォームにより回答を収集。
●調査期間 :2025年8月21日(木)~10月10日(金)
●有効回答数:395回答・回答率 22.1%(内訳:都道府県:46.8%、政令市:80.0%、一般市:25.2%、中核市:45.2%、特別区:34.8%、町村:15.3%)
●調査項目 :人事施策のうち、①採用・人材確保、②人事配置・適材適所、③人材育成・研修、④人事評価、⑤外部人材、⑥首長・経営層の関わり、⑦デジタル活用・HR-Techについて全52問を尋ねた(設問一覧:https://waseda-idi.jp/pdf/2025/jinjisetsumon.pdf)。
●調査の特徴:自治体の人事はある種の「聖域」という文化があり、工夫の余地が少なかった。そのためどのような工夫をしているかを中心に聞いている。なお、弊所基準による得点化でランキングを作成、回答自治体に送付する。自組織の位置づけを知り先進自治体とのベンチマークに用いることができる。
●調査監修 :大谷 基道氏(獨協大学法学部長・教授/地域経営部会プラクティショナー)